胚評価と電話対応に関すること
- 2019年10月31日
- 培養室
連日の台風上陸や大雨により、未曽有の被害が各地で発生しています。被災された方々に置かれましては、一日でも早く回復されますようお祈り申し上げます。
10月22日に「即位礼正殿の儀」がメディアで放映されましたが、私は休暇中であったため、リアルタイムにTVで儀式の様子を見ていました。当日は朝から雨が降っており、どんよりとした空模様でした。13時頃に天皇陛下がお出ましになるというテロップが流れ、どんな衣装でお見えになるのだろうと待っていました。時計が13時を回ったちょうどその時、待っていたかのように、カーテンから眩しい日光が差し込みました。びっくりして外を見ると、雨模様であったはずの空に青色が見え、全身に鳥肌が立ちました(なんと、皇居には虹まで出現したそうです!)。日本は本当に、アマテラスの加護があるのかもしれないですね。
さて、当院では体外受精を行われた方へ結果を伝える手段として、電話対応を採用しています。電話対応は本人確認が直接できるため、安全で迅速に結果をお伝えできるメリットがあります。分割胚や胚盤胞で凍結を目指す患者様には、凍結結果の確認としてお電話を頂いています。受精したかどうか、凍結できたかどうか、凍結出来なかった場合はどこまで成長したか、を伝えています。電話対応とはこのようなメリットがある一方で、言った言わない、というトラブルがつきものです。特に、凍結確認をいただいた患者様は、当然ながら胚の状態を詳しく聞きたくなると思います。胚盤胞凍結確認の場合、「何日目で凍結出来ましたか?」と質問される方もいれば、「胚のグレードを教えてくれますか?」と言われる方もいます。
まず、「何日目で凍結出来ましたか?」につきましては、胚盤胞は採卵日を0日目、受精した日を1日目として、5日目から7日目にかけて大きく成長してきます。一般的に5日目胚盤胞が良好な成長速度、7日目胚盤胞は遅い成長速度、と考えられています。いただいたご質問に対し、「5日目です」という回答であれば患者様は安心し、「7日目です」という回答であれば落胆される方もいらっしゃいます。ただ、「何日目?」というご質問は非常にシンプルですので、5日目、6日目、7日目の3種類しか返答の選択肢はなく、後々言った言わない、というトラブルに発展する可能性はほとんどありません。もちろん、胚質の説明としては不十分なことが多いです。
次に、「胚のグレードを教えてくれますか?」についてです。「グレード」については、分割胚、胚盤胞において色々な評価があります。一般的には、分割胚の評価はVeeck分類を用いた評価法、胚盤胞の評価はGardner分類を用いた評価法が多く用いられています。しかしながら、両評価法ともにあいまいな定義を含んでいるため、施設毎に定めなければならない基準が存在します。特にGardner分類は、細胞数と胚の拡張度合いによる評価であるため、時間という概念が含まれません。つまり、「胚のグレードを教えてください」という要望については、「拡張して透明帯が薄くなるほど拡張した胚盤胞で、細胞はそこそこありますので、評価は4BBになります。」という内容が答えとなり、「5日目で凍結出来た胚盤胞です」という情報は、質問の答えとして成立しないのです。
加えて当院では、胚盤胞評価の一部にGardner分類を改変して利用しておりますので、口頭で説明するのは不可能ではないのですが、資料もない状況でご理解いただくことは難しいと思います。ネット上で出回っている情報とマッチさせることも難しいと思います(論文検索すればヒットするかもしれません)。つまり何が言いたいかといいますと、「胚のグレードについては、電話にてお答えするのが難しいので、次回来院いただいた際にご説明いたします」という返答になってしまいます、ということです。
胚盤胞評価については、これまでの治療歴から解析し、自信をもってお示しできるデータがあります。しかしながら、複雑な評価方法を電話でお伝えすることで、伝達ミスが生じたり、言った言わないの水掛け論になる事ほど、無駄で悲しい結末はないと思います。
このことから、やはり直接患者様と顔を合わせ、胚盤胞の写真を一緒に確認しながら評価の説明をさせていただきたく思います。お電話にて胚質に関するお問い合わせをいただきました際は、分割胚であれば「〇〇細胞期で凍結しました」、胚盤胞であれば「〇〇日目で凍結しました」、という返答に限らせていただきます。
電話口での詳細な説明ができず、お気を悪くされる患者様も稀にいらっしゃいます。この点は申し訳なく思っていますが、特に電話の時間帯は多くの患者様からの電話を受けておりますので、この点もご理解いただけますと有難いです。
培養部 河野 博臣