第65回日本卵子学会参加報告
- 2024年6月20日
- 培養室
例年にも増して梅雨入りが遅くなっていると騒がれていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は都内から藤沢まで出勤をしております。出発時と到着時に天候が変化することは多々あり、職場の置き傘や家の持ち傘がどんどん増えております。
先月末からスケジュールが詰まっており、報告が遅くなって申し訳ありません。5月18~19日に神戸で開催されました学会に参加してきましたので報告致します。
学会では当院の凍結融解胚移植成績について発表をしてきました。今回は『卵子や胚の質とその低下の原因』について著名な先生方の講演を拝聴することができ、大きな収穫がありました。特に胚発育が悪く治療に難渋されている患者様にとって有効と考えられる技術、製品の新規導入につなげることができました。
私たちはこれまでの経験やデータの蓄積から、患者様毎にどのような対応が有効であるか、提供できる技術を多く保有しています。しかしながら、原因不明の現象を目の当たりにすることもしばしばあり、参考書などに記載されておらず対応しきれていない症状があることも事実です。
その一つに胚の分割異常『direct cleavage (DC)』と呼ばれるものがあります。通常、胚は一つの細胞が2つの細胞に分かれ、それぞれの細胞がまた2つに分かれ…とその数を増やしていきます。しかしながら、1つの細胞から3つ以上に分裂してしまうことがあります。この現象がDCと呼ばれるもので、原因がわかっていないことから防ぐことが難しい症状となります。細胞を増やすためには細胞内でDNAの複製が起こる必要がありますが、細胞内の仕組みではDNAは一度に1つしか複製が出来ません。従って1つの細胞が3つ以上の細胞に分裂してしまった場合、正常細胞の割合が下がってしまうので胚盤胞に育ちにくく、育っても細胞数が非常に少なくなってしまうことに繋がります。
今回の学会では、PIEZO-ICSIで受精させることでDCの発生率の低下に成功したという報告が他の施設からありました。PIEZO-ICSIとは機械の力を借りてストレスを低くした顕微授精の手法であり、特に新しい技術ではありません。当院では主に卵子の細胞膜が弱く、通常の顕微授精では受精成功率が低い患者様に提供してきた技術です。おそらく、DCについて手法の面から改善を報告したデータはこれが初めてではないかと思います。感覚としては何となくわかるのですが、DCの改善に至る原理が分からないのでこれまでは患者様に積極的に勧めることはありませんでした。しかしながら本当にDCが改善するのであれば使わない手はありません。当院でも今後データを収集し、本当に有効なのかをしっかりと見極めていきたいと思います。
培養部 河野