第11話 無駄ということ|山下湘南夢クリニック|藤沢市の不妊治療/体外受精

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第11話 無駄ということ|山下湘南夢クリニック|藤沢市の不妊治療/体外受精

第11話 無駄ということ

無駄の“駄”という字は馬の積荷のことを意味するそうです。馬で物資を輸送していた時代、駄が無いとはつまり空荷で馬を引くことであり、儲けがないばかりか馬の飼葉代だけがかかり損をすることになります。そこから無駄という言葉が由来していると中学生の頃に習った記憶があります。

YSYCは本年四月で開院してまる6年になります。この歳月は、治療においても経営面でも、無駄を見つけ出し、それを省く方法を考え実践し、より本質的なものへの脱皮を繰り返してきた日々だったように思います。

丁度、氷像のアーティストが、四角い氷柱からひとノミひとノミ氷を削り取っていくと、遂には光り輝くペガサスが羽根を広げ見事な姿を現すように、ひとつひとつ無駄を省いていく長いトンネルの先には、物事の本質や真理が均整のとれた美しい姿で出迎えてくれると思っています。

先日、不妊治療分野では名の通ったクリニックの医師がYSYCに見学に来ました。彼の施設では医師3名で年間500件の採卵を行っているそうです。そして、一件の採卵には20分-30分かかると話していました。YSYCの採卵所要時間は一件5-6分です。私と副院長の二人で昨年は3000件近い採卵を行いました。5倍を超える採卵を彼らより少ない医師で行っているのですから、見学を終えた彼はただただ驚いていました。別に当院の採卵が、患者さんを急かせたり、我慢を強要しているわけではありません。様々な無駄を削ることによって、マジックのように時間を節約することができるようになるわけです。その結果、治療費を下げて患者さんに還元することができます。額に汗して働いてくれる職員の労に報いる報酬を払うことができます。そして、自分の夢を実現する費用を捻出することもできます。

しかし、なんでも無駄に思われるものを省いていけばいいというものではありません。何が無駄で、何が無駄でないのかを見極めることはとても難しい作業です。

以前ブログにも書きましたが、私は2年前に二度倒れて救急外来に搬送された経験があります。一日100人を超える患者さんを休みなく一人で診察し、クリニックの経営や人事、学会活動や研究について考え、さらに家族それぞれの悩みや問題の相談に乗っていると、自覚せぬうちにストレスがじわじわと蓄積し心身の体力を侵食してきます。そして、許容限度を越えると自律神経の働きに変調をきたしいろいろな症状を呈してくるようです。私の場合は、就寝前に何の前触れも無く、深呼吸しても息が肺に入っていかないような言いようのない苦しさに襲われるようになりました。まあ、慣れればなんとかなるだろう、そのうちに順応できて消えていくだろうと考え、そんな日々を繰り返しているうちに倒れてしまいました。そして、診療に穴をあけ患者さんに迷惑をかけてしまいました。病院へ搬送される救急車の中で“残念ながらこの辺りが自分の能力の限界。医師を雇っても無駄にはならないだろう。”とぼんやりする頭で考えていました。それが、医師を増やすことを決心した経緯です。

あることが無駄かどうかを知る最善の方法はとにかく自分の限界までやりきってみることだと思います。全力を尽くしても叶わないなら、必要なものを補ってもそれが無駄になることは少ないと思います。

YSYCでは、採卵や胚移植そして手術前には必ず“お願いします”とスタッフ同士で声を掛け合います。ですから、20件採卵があれば手術室にいるスタッフ全員が20回“お願いします”と声を掛合うことになります。スタッフの中には無駄なことをしていると感じてか聞こえるか聞こえないかの小さな声しか出さない者もいます。しかし、私は開院以来この声掛けをずっと続けています。それは、私たちスタッフにとってはその日のたとえば10件目の採卵であっても、患者さんお一人お一人にとっては最初で最後の採卵だからです。“お願いします”の一言は、一人一人の患者さんに新たな気持ちで対応し、集中をするために省いてはならない大切な儀式だと思っています。

文頭の駄の話に戻りますが、大切な積荷を受け取るには、行きは空馬で一見無駄に思われても、労を惜しんではならない無駄もあるのだと思います。

不要な無駄を省き、必要な無駄をする労を惜しまず、診療の質を高めていけるよう努力を積み重ねていきたいと思っています。

追記)YSYCの3階の男子トイレの鏡を占拠してヘアスタイルをああでもないこうでもないと上目遣いに手櫛で整えている(乱している?)いつも見かけるスーツ姿のお兄さんへ。
貴男は仕事中の大切な時間をたくさんたくさん無駄にしてるよ!
貴男が振り向いた風圧でヘアスタイルは元の木阿弥。費やした時間は全て無に帰してるの、知ってる?
貴男に送る言葉。“Time and tide wait for no man!”
覚えといてね(^-^)/

2015年3月16日 院長 山下直樹