学会参加報告
- 2016年11月1日
- 培養室
日増しに秋の深まりを感じる季節となりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。培養部の河野です。
9月に受精着床学会(軽井沢)、10月にASRM(ソルトレイク)と大きな学会に続けて参加させていただきました。ASRMは、私が当院に入職して初めての国際学会発表でした。割り当てられたパネルにデータを掲載してディスカッションを行う、ポスター発表という形式でした。受精卵は小さなプラスチック容器内で培養されます。患者さんの取り違えが起こらないよう、プラスチック容器にはマーカーやラベルシール等を用いて情報が記載され、識別管理がなされています。このラベルシールについて、使用されている粘着剤の成分によっては、胚に悪影響を及ぼす可能性があることが、動物実験により分かりました。今回のASRMでは、ラベルシールの成分が培養環境へ及ぼす影響を調べた際のデータを発表してきました。
ディスカッションの時間には、海外の先生方が10人程足を止めてくださり、各々からとても流暢な英語で質問を頂戴しました。質問内容を理解するのに時間を要し、大汗をかきながら返答しておりました。筋骨隆々でヒゲを蓄えた外国の先生が近づいてきて、「似たような研究をしたことがある」と、過去の研究成果について詳しく紹介してくれました。最後に「グッドラック」と笑顔で握手を求められ、とても光栄でした。
もう13年程前になりますが、大学在学中にアルバイトをして蓄えた貯金を使い、英会話学校の日常英会話コースを卒業しました。しかし、あの頃に育てた脳細胞は主を見捨てて全ていなくなってしまったようです。日常的に英語に親しむ環境を作らねばならないと痛感しました。
学会を通して興味深かったトピックスは、やはり培養環境に関するものでした。従来、受精卵の培養器は加湿をし、湿度飽和の気相にすることが一般的です。培養液の蒸発を防ぐ必要があるからです。加湿型の培養器は湿度の維持、カビの混入等について、とてもデリケートに管理をする必要があります。受精卵の観察では培養器の蓋の開閉を伴うことから、培養環境がマイナスに変動します。近年、培養液をミネラルオイルでカバーして培養を行う場合、必ずしも加湿は必要ないというデータが報告され、非加湿型の培養器が普及し始めました。非加湿型であれば操作性、管理、培養環境の復旧が容易になります。ところが今回の学会で、非加湿型ではオイルでカバーをしても、培養液が少しずつ蒸発するという内容が報告されました。そもそもミネラルオイルは水分を全く通さないものと考えておりましたので、非常に衝撃的でした。当院でも非加湿型の培養器を使用していますので、各施設からの報告内容を聞き、培養環境について注意深く検証をしておりました。各施設、企業に話を聞きまわったところ、どうやらミネラルオイルの品質が水分の蒸発量に関わっているようです。
ASRMにて、当院で採用しているミネラルオイルと同じ製品を使用したデータをコロラド州のグループが報告しておりました。ミネラルオイルの純度を上げる方法の一つに、洗浄という手法があります。当グループによるとオイルの洗浄を行っても、培養成績に差は認められなかったとのことでした。つまり、当院で採用しているミネラルオイルは非常に純度が高いことが裏付けられたため、ひとまず安心しました。しかし成績に影響を及ぼすほどの変動ではないといえ、水分がわずかでも蒸発することは事実です。長期間培養する胚盤胞培養の場合、加湿型の培養器を使用する方が良いと考えられます。加湿vs非加湿の議論はもうしばらく続くと考えられますが、患者さんにとってどちらが有用であるか、引き続き情報を集めていきたいと思います。
学会が終わり、パークシティのホテルへ移動する途中、コットンウッドキャニオンにて雪に触れることができました。南国生まれの私は雪と疎遠でしたので、海外で初雪を経験でき、とても幸福でした。学会参加の機会を下さった山下院長、学会参加中に培養室業務を支えてくださったスタッフの皆さまに深く感謝致します。
①グレートソルトレイクの風景
琵琶湖の約7倍の広さです。湖畔には磯の香りが漂っていました。
②コンビニで売っていたミント
強力なミント。特に下の製品は、サロ〇パスの匂いを味として忠実に再現していました。