「特許出願のこと」
- 2017年3月7日
- 研究室
早咲きの桜が咲きはじめ、春の野菜が店先に並ぶ頃となりましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?高度生殖医療研究所の中田です。
3月1日に5個目となる特許を出願しました。この特許はY精子(男の子)の選別方法です。着想は昨年の5月で、検討に検討を重ねて、開発した特許になります。詳しくはお伝えできませんが、92%の確率でY精子を選別できます。
ここで、「Y精子」、と言っても、ピンと来ない方もいると思いますので、簡単ながら説明をさせていただきます。人間の細胞の染色体数は常染色体が22対(44本)、性染色体が1対(2本)あり、合計46本あります。「常染色体」は女性と男性ともに同じ染色体であるため、「常染色体」と呼ばれ、「性染色体」は女性がXX、男性がXYというように異なることから「性染色体」と呼ばれて区別されています。「対」という言葉が示すように、人間の体の染色体は、半分は「母親」、半分は「父親」から受け継がれ、セットになっています。体細胞と異なり、卵子や精子のような生殖細胞は体の細胞の半分の数の染色体で構成されています。卵子は22本の常染色体と性染色体のX、精子は22本の常染色体と性染色体のXあるいはY、となります。精子のもつ性染色体がXなのかYなのかで、受精した卵子の性別が決まります。卵子に比べて、とても小さい精子ですが、その頭部の中には常染色体22本と性染色体1本(XかY)が収納されているんですね。精子1つ1つ、頭部の形や大きさ、頸部の位置、尾部の長さ、尾部の振幅の違い、運動性が異なるので、飽きもせず、顕微鏡にくぎ付けにされることもしばしばあります。面白い形や運動性の精子にはぶつぶつ話しかけてしまうこともあるので、完全に危ない奴だなと我ながら思ってしまいます。
5個の特許のうち、2つが胚に関する特許、3個が精子に関する特許、となりました。
学生の頃、研究室に入室したてだった私は研究テーマを選ぶ際に教授に「精子の研究がしたいです」と伝えたのがもう20年近く前だなと思いだします。クローン動物を作る研究や凍結を研究することがメインだった研究室で、「精子の研究」をすることはとても難しいと言われ、顕微授精の研究ということで実験していこう、と教授と話し合ったことが懐かしいです。それでもどうしても「精子の研究」がやりたいです、と言い、教授を困らせたことも思い出します。
顕微授精の実験をする傍らで、諦めの悪い私は研究室で手に入る動物の精子の標本を作っては、時々見ていました。お菓子の缶の中に各種動物の精子の標本を大事に入れて、時々の楽しみにしていました。マウス、ウサギ、ラット、ブタ、ウシと形が異なることが面白く、またそれぞれの動きが全く異なることも面白く、実験はできないけれど、勉強だけはしようといつか実験できる時が来たら役に立つかもしれないと精子に関する論文を読んだものでした。電車の中では「精子学」という分厚い本を読んで通学していたので、周りに座っている人が変な目で見ていましたが、本当に変な女子大生だったと思います。諦めが悪いですよね。その後、顕微授精の研究から、核移植や核置換(卵子の若返り)の研究へと進み、どんどん精子の研究からは遠ざかってしまいました。しかしながら、いろんな研究ができたのはとてもラッキーなことだったと思いますし、いろんな貴重な勉強ができたなと今では思います。当時は、やりたいことができていいね、楽しそうでいいねと他の人から言われる度に、口にできない鬱憤だらけでしたけれど。
この高度生殖医療研究所で、精子の研究をすることができたのは、大変なこともありますが、とてもラッキーなことだと思います。実験年数で見られたらとても短い期間ではありますが、濃度でみたらとても濃い濃度だなと思います。それでも、まだまだ勉強が足りないと思うので、これからも勉強していきたいです。
こんなことができたら患者さんに役に立つかもしれない、という実験がまだまだありますが、一つ一つの実験を形にしながら進めて行きたいなと思うこの頃です。