「ロッキー山脈と湖―アメリカ生殖医学会2016年-」
- 2016年10月23日
- 研究室
秋も深まるこの頃ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?高度生殖医療研究所の中田です。
10月16日からアメリカ合衆国ユタ州ソルトレークシティーで開催されたアメリカ生殖医学会(ASRM)で発表してきました。
今回は培養室長と私の2題の発表でしたが、日本の施設からの発表がかなり少ない中、1施設から2題発表はなかなかの快挙ではないかと思います(自画自賛のようですが)。
私の発表にもたくさんの質問をいただいて、とても勉強になりました。
今回の学会で私が特に驚いたのは、2004年から2013年のアメリカの治療数に占める卵子提供、精子提供、胚提供の割合です。治療総数135万周期に対して、卵子提供が約14万周期(約10%)、精子提供が約3万7千周期(約2.7%)、胚提供が約7500周期(約0.6%)という驚くべき数でした。他の発表では、その周期に対する民族の割合まで掲示されていましたが、アメリカが多民族国家であることを反映していること、血縁関係よりも関係性や個人の意志を尊重する国であることを感じました。
アメリカや海外での不妊治療のトピックには、卵子提供、代理母出産などがクローズアップされていますが、通常の治療での胚移植(分割胚、胚盤胞移植を含む)での出産率は29.6%、卵子提供を受けても出産率は42.3%、胚提供を受けても34.1%という率であること、卵子提供は400万円前後、新鮮胚移植が1050ドル(約10万5千円、2016年10月22日現在、円高で1ドル103円)、凍結費用1000ドル(約10万円)、凍結胚移植3812ドル(約38万1200円)、治療費は合計約140万円前後がかかっていること(採卵費用や体外受精や顕微授精代、薬代については別途請求。また、施設間で異なるため平均であり、胚の数によっては費用も異なる)はあまり知られていない、驚くべき高い数字だと思います。
アメリカや海外に行って卵子提供や治療を受ければ日本よりも成功率が高い、かのように言われていますが、決してそうとは言い切れない数字ですし、保険や保証がない国での治療では医療費を際限なく使える方でない限り、渡航滞在費も含めるとなかなか大変な金額になりますし、言葉の違い、文化の違いのある国での治療は困難も多いだろうと思いました。
また、私はアメリカの家族関係が気になり、渡航中から少々調べました。アメリカでは連れ子のいる再婚率が1980年代から増加し、養育権をめぐる裁判数の増加、子供の虐待数の増加、保護を要する子供は約51万人(2006年)も報告されています。さらに、調べていて驚いたのが、アメリカでの実子の誘拐数が年間で13万5千件もあるということです。日本は必ずしもアメリカのようになるとは言い切れないのですが、数十年後は一体どうなっているのだろうか、と考えさせられました。
現実的な話が続いてしまいましたが、渡航中の最終日、ソルトレイクに立ち寄りました。土色帖の番号でお伝えできれば正確なのですが、黄色がかった褐色の山と白い水色の湖の色とのコントラストが綺麗な風景でした。遠い昔にアメリカインディアンたちも見ていたかもしれないなと思ったりしました。
最後に私の好きな本、「ネイティブアメリカン 聖なる言葉」からの一説
あなた最大の宝は内なる子供だ。
年をとっても、
その子供を育み続けなさい。
この子供は永遠にあなたの一部。
内なる子供はあなたに
あなたが願ってもやまない自由を、
あなたが欲する自発性を、
あなたが求める驚きを、与えてくれる。
子供の目でものを見よ。
そうすれば人生の魅力がわかる。