「夜光虫の海」
- 2017年5月7日
- 研究室
桜の季節も過ぎ、初夏の陽気と藤の花が咲くころとなりましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
高度生殖医療研究所の中田です。
5月5日に由比ヶ浜で夜光虫の大量発生がニュースで報告されましたが、私はその光がどうしても生で見たくなり、自転車を飛ばして見に行きました。風邪をひいて声も出ないし、足も負傷しているし、でしたが、好奇心に勝るものはないなと改めて思いました。
おぼろ月の夜、波の間に一点の光が出現し、波が浜辺に押し寄せる際にその光が広がって、波の形が青く光る幻想的な風景でした。その様子は全く飽きることがなく、いつまでもいつまでも波が押し寄せるたびに続きました。
海は「母なる海」と呼ばれ、生命誕生の源と言われています。私は夜光虫の発光「ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応」を眺めながら、精子のことを考えました。たくさんいることで発光が肉眼で見えても、実は直径1mm程度の大きさの夜光虫1つ1つがそれぞれ反応を起こしていることに、やはりすごいなと思いました。だけど、おそらく全ての夜光虫が発光しているわけではなく、何かが足りなくて光ることができない夜光虫もいるかもしれない、夜光虫は考えたりはしないかもしれないけれど、自分が光ることができないのは悲しくはないだろうか?光っている夜光虫にいじめられたりしないだろうか?それとも光らない自分をそれが自分だと受け入れているのだろうか?と妄想は膨らむばかりでした。
前置きが長くなりましたが、4月から5月にかけて、高度生殖医療研究所が開発した、とても精子数の少ない場合に確実に凍結融解でき、精子のロスがない精子凍結デバイスの試用を、古くからの友人、お世話になった方々、大学時代からの恩師の元で進めています。今まで、精子の凍結デバイスは、大量に精子がある場合が主流であり、少ない場合には他の細胞の凍結で使用されているものが代替品として使われてきました。誰もが使えて、簡単で、すぐにできて、精子1つを確実に凍結融解できる、そんなものがあったらいいな、を2年前に考えたところから始まりました。ものを作るというのは、いいことのように思われますが、正直、心配だらけです。胃薬と頭痛薬は欠かせないですし、眠れなくなります。それでも、精子がなくなって患者さんが悲しんだり、友人である培養士たちの責任になったり、ということが少しでもなくなればと思います。自分の考えが間違っていないか、どういう方向がいいのかは、試用に協力してくれた友人たちや恩師たちのおかげで気づきましたし、喜んでもらえたこともうれしかったですが、足りないところは改善していきたいと思っています。
心配していること、悲しいことやつらいことの連続の毎日ですが、夜中でも体調不良でも自転車を飛ばして夜光虫を見に行く元気はたっぷりあります。応援してくれる人たちがいてくれるのがとてもありがたいです。まだまだがんばろうと思います。