「湯を沸かすほどの熱い愛」
- 2017年12月27日
- 研究室
前回の投稿から日が空いてしまいましたが、皆様お元気でしょうか?高度生殖医療研究所の室長の中田です。
10月から12月と学会発表以外にも出張や講演のお話をいただき、11月、12月ともに職場に出勤する日が半分以下もしくは1週間くらいという毎日でした。
その中で、私が学会や実験以外にも力を入れていることを今回はお話したいと思います。
胚培養士~生殖医療の現場から~というお話を先日、桐蔭横浜大学の大学生さんたちにお話してきました。
その内容がNHKのネットニュースの記事になりましたので、よかったらご覧ください。
患者さんやこのブログを読んでいただいている皆さんは、培養士がどのように技術を覚えていくかをご存知の方はいらっしゃるでしょうか?
日本中、おそらく世界中でも、マウスや動物の卵子でトレーニングを積んでから、臨床で技術を活かす、という方法は取られず、患者さんから善意でいただいた胚や精子でトレーニングしているのが実情です。
しかしながら、当院は違います。私の高度生殖医療研究所で、動物の胚を準備して、凍結胚盤胞の技術習得、卵子へのピエゾICSIを行って、高い技術をもつ培養士だけが研修をクリアし、さらに培養室長のもとで鍛えられる、というシステムを取っています。マウス卵子は哺乳類最弱であるため、その卵子でトレーニングをすることで技術を高めることができるからです。
この背景には、培養室の臨床業務の間に教える時間がなかなかないことや、基礎からしっかり学ぶ機会を持ちたいことから、医師、培養士、研究という3者の合意で進めている当院独自のトレーニングシステムです。
今は、一人がピエゾICSIを習得中、そして先日は一人が凍結保存技術を習得しました。一人に習得してもらうためには、動物の胚での練習を何度も何度も繰り返すこともあります。
準備もとても大変ですが、提供されたヒトの胚盤胞を実際に練習として何も思わずにできるでしょうか?自分の肉親の胚盤胞で練習できますか?という話につながります。
人に何かを教えるというのはとても度胸が必要なのですが、何よりも大事なのが教える方、教えられる方の努力に尽きると思います。
今回のテーマに挙げた「湯を沸かすほどの熱い愛」、という映画をご存知でしょうか?海外で学会発表する際に向かった飛行機の中でみて、3回も見てしまいました。3回とも号泣してしまいました。宮沢りえさんの演技も良かったですが、篠原ゆき子さん(コウノドリにも出演されて、死産をされた母親を演じていた方です)の演技に、涙が止まりませんでした。篠原ゆき子さんの役の女性は聴覚障害で出産した娘を育てられず、宮沢りえさんが自分の子として育てていました。その子は宮沢りえさんの旦那さん役のオダギリジョーさんが浮気してできた子供でした。宮沢りえさんは自分の子供としてたくさんの愛情を注いで育てていましたが、その子が学校でいじめに合っても、母親としてできることを最大限にしていました。宮沢りえさんがその子を篠原ゆき子さん扮する聴覚障害の母親に面会させる姿、自分の子供だと気づいた時の篠原ゆき子さんの声にならない叫びと涙(もう号泣でした)。宮沢りえさんの役の女性は、自分は旦那さんの子供を産むことはなかったけれど、自分の愛情を注いだ子供たちに囲まれ、たくさんの友人たちに囲まれて、余命2か月を精一杯に生きた姿は思い出しても涙が出てきます。
「あの人のためなら、何でもしてあげたいって思うか、多分それって、その何倍もしてもらっているって思えてるからなんじゃないかな。」
映画の中での印象的な言葉です。いろんな人に何かを伝える機会があって、自分のベストを尽くしたいと思って一生懸命に教えても、他で嫌な思いをしないようにと厳しく言っても、パワハラだと言われたり、あちこちに悪口を言いふらされたり、たくさん悲しいことはあります。でも、そのうちの何人かが、患者さんの赤ちゃんができることに繋がるために教えた技術を使ってくれるならばいいのかな、と映画をみていて思うようになりました。私はまだまだ何倍もしてないなと思いました。そんな思いから、教える時には優しく厳しくしないと、患者さんの涙に繋がってしまうので、なかなか大変だなと思いつつ、日々勉強になるこの頃です。
最後になりましたが、今年も私の投稿を読んでいただいてありがとうございました。一人でも何かの役にたっていただけていたら良かったなと思います。
職場の同僚たちのたくさんの応援、たくさんの方々との出会いのおかげで一年を過ごすことができました。来年も予定がいくつか決まって来ていますが、初心を忘れずに行きたいと思います。来年もYSYCに関わる皆様の幸せを祈願し、たくさんの笑顔と涙と、彩の多い一年にできるようにしたいと思います。
ありがとうございました。