ブルーベリーの実る森-ESHRE2016-
- 2016年7月11日
- 研究室
暑い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
高度生殖医療研究所の中田です。
7月3日からフィンランドの首都ヘルシンキで開催されたESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)で発表してきました。
ヘルシンキはトラムと鉄道の発達した近代的な街でありながら、たくさんの歴史的な建造物が一体化し、カモメが飛び交い、緑の多い自然と人間の融和した街でした。
フィンランドの方は親切な方が多い一方で、日本人には考えられないゆっくりとしたペースの方が多い印象を受けました。
一緒にヘルシンキに行った同僚たちがブログをアップすると思いますので、私からは街の感想はここまでにしたいと思います。
ESHREは生殖医療の学会としては、世界で最も大きな学会の一つであり、要旨を投稿しても採択率の低さで知られています。中でも日本人の採択率は低く、最難関と言ってもおかしくはないと思います。
昨年に続き、今年も私の研究の要旨が受理されたことは本当に嬉しいことでした。
受理された内容は、ヒトの精子を水素処置するとATP量(細胞の生命エネルギー)が増えるというものです。
神奈川県の三崎にある東大の臨海実験場でいつも実験させていただいている内容で、東大の吉田先生、桐蔭横浜大学の吉田先生にご指導いただいて、進めてきました。
ヒト精子の運動性は国内でも海外でも研究している研究者がとても少ないのですが、ヒトの体の中で唯一、目的をもって運動する精子は、細胞としても研究としてもとても魅力的です。研究することができて、幸せだと思います。
ESHREの学会会場を目にした瞬間はやはり胸が熱くなりました。昨年、母親のような存在だった祖母が亡くなった次の週、東大で実験させていただいていましたが、夜中に活発に運動する精子を顕微鏡で見ながら、涙が溢れてどうしようもなかったことを思い出しました。
どんなに努力しても報われないこともありますが、この研究が患者さんの役に立つのだからと涙でぼやけた視界をぬぐいながら(サンプルに涙が落下したら、結果は出ないですし)実験した夜中を思いました。
また、同時に大学の指導教授のお母様が亡くなられた時も、腫れた目をしながら実験をして、学生の指導をされていたことを思い出しました。
身内でどんなにつらいことがあっても、周りからは冷酷だと思われても目的があるなら、誰よりも自分がその研究で一番になりたいなら、どんな状況でもやらなきゃいけないことはやらないといけない、とおっしゃっていたことを思い出しました。
教授のお母様とは学会の時に教授のご実家をお伺いした時にお会いしました。とても脂の載った美味しいサバの押し寿司とお吸い物の汁が見えないくらいの松茸たっぷりのお吸い物で歓迎していただいて、お話させていただきました。
帰り際、教授のお母様が、私たちの姿が見えなくなるまで見送ってくれました。
教授のお母様が亡くなられたときは、仕事よりお母様のそばにいてあげたらいいのにと思いましたが、今思うと、私の出身大学は教授一人でたくさんの学生を見なければならなかったので、どんなに近くにいたかったとしても仕方なかったのだろうと思います。
題名にあげた、ヘルシンキの森は学会の間に観光できた場所でしたが、もみの木、松の木がたくさん生い茂った森で澄んだ水の湖が広がり、道端にブルーベリーがたくさん実っていました。顕微鏡を見ることで、視力が急激に低下した私に祖母がたくさんブルーベリーを食べさせてくれたことを思い出し、見つけるとすぐに食べてしまいました。手のひらで5回は食べてしまったので、視力回復していてくれたらと思います。
懐かしい人、懐かしい味とともに、新しい研究への思いを再確認することができた海外出張となりました。
写真は森で見つけたカエルです。卵から孵ったばかりで小さいカエルで跳び方も下手くそでしたが、無性に可愛かったです。