皆様、こんにちは。

培養師兼研究員の中田久美子です。 

新緑も綺麗で穏やかな季節になったと思ったら、梅雨入りですね。

いかがお過ごしでしょうか？

5月25日に卵子学会があり、私も発表してきました。たくさんの方からご質問いただけてうれしかったです。私の発表は当クリニックの業績集をご参照いただけたらと思います。

今回の卵子学会と麻布大学のセミナーでKarl Swann先生という、受精のメカニズム、特に精子が受精で果たす役割を研究されている先生にお会いすることができました。

ミオファティリティクリニックの皆さんもお忙しい中にも関わらず、セミナーの聴講をご一緒できてうれしかったです。

 

少し、受精についてご説明すると、精子が卵子の細胞膜に付着すると精子の中のあるタンパク質が引き金となって、卵子の細胞質内の小胞体に蓄積されているカルシウムが放出され、規則的なカルシウムの増加と減少が繰り返されます。

この現象はカルシウムオシレーションと呼ばれています。オシレーションは周期的変動という意味です。

そして、そのオシレーションを引き起こす精子のタンパク質がPLCζであるということをSwann先生は解明されました。PLCζは「受精の要」だと思います。

カルシウムオシレーションは胎児の心拍よりも前に、細胞レベルでの初めての拍動のように私は感じるので、とても感動する現象であり、学生時代から大好きな研究です。

15年前に私が大学の学部生だったころ、Swann先生が来日され、カルシウムオシレーションについての講義を東京農業大学でされたことがありました。

私はとても嬉しくて、Swann先生が書かれた論文を手に握りしめ、他大学にも関わらずセミナーに参加して、サインをいただいたのを思い出します。Swann先生は覚えていらっしゃらなかったけど、私にとっては、大好きな芸能人に会うよりもとっても嬉しかったです。

自分もSwann先生のように、目的をもって、好奇心を忘れず、研究を続けたいなと思いました。

今回はいろいろとお話することができて、研究をしていてよかったと思いました。

臨床的にもPLCζは応用が始まっています。日本ではまだですが、海外では特に重要視されています。5月の説明会に参加された方には私のお話を聞いていただけたかと思いますが、形態的に正常な精子であっても、このPLCζが不足している患者さんがいらっしゃいます。その場合、体外受精や顕微授精を行っても受精しません。その際に卵子が原因なのか精子なのかを確かめるのに、PLCζの確認は必要になります。

PLCζが不足している場合には、電気刺激を行い、受精を補助することができます。当クリニックでは、薬剤を使う補助方法よりも卵子に優しい電気刺激法も行っていますので、なかなか受精しない方にはおすすめの技術です。健康な赤ちゃんが生まれていますので、どうか安心されてください。

8月の受精着床学会で培養の中山が臨床報告をする予定ですので、楽しみにしていてくださいね。

基礎研究から臨床研究、臨床研究をしているからこそ基礎研究をもっと勉強しなきゃと思う毎日です。患者さんと卵子や胚や精子のお話をする際に、いろいろな質問をしていただけると、こんな技術があったらいいなと思うことが多々あります。

また、最近、私の知人が当クリニックで治療を続けていて、妊娠され、卒業しました。

卒業の日が学会発表の日と重なり、私は花束を渡すことができませんでしたが、学会会場からおめでとうの気持ちを伝えました。

彼女が茨城から当クリニックを頼ってきてくれたこと、受精しなかったり胚が育たなかったり、移植しても妊娠しなかったり、厳島神社で彼女の妊娠祈願をしたりしましたが、毎回、私にできることはなんだろうかと思ってきたので、とても嬉しい日でした。

彼女から「言葉にはできませんでしたが山下先生、培養師さん、看護師さん、すべての方にありがとうの思いです」といただいた時に、涙が出てしまいました。

受精は精子と卵子のいい出会いだと思います。その出会いをより良い状態にできるように、培養師としても研究員としても、今後も考えていきたいなと思います。

長くなってしまいましたが、真ん中がKarl Swann先生です。麻布大学のセミナーの後のお食事をご一緒させていただきました。とっても真面目で優しい先生です。ついに私は映ってしまいましたが、右と左とどちらでしょうか？Swann先生に「別腹」という日本語を教えたのは私です。ただし、私の場合の別腹はスイーツよりビールですけどね。