目指せ!説明上手
- 2021年4月23日
- 研究室
こんにちは。高度生殖医療研究所の甲斐です。
唐突ですが、話題を提供する際には出来るだけ相手に理解してもらいたいと常日頃から思っています。自分の研究を社会に役立てるためには、専門外の方々に広く理解してもらうことが重要です。説明会などでも出来るだけ分かりやすい表現を使っているつもりではありますが、これがなかなか難しいものです。
昨年12月のブログで少し触れた論文ですが、先日、無事にReproductionというイギリスの学術誌に採択されました。ちょっと自慢になりますが、エディターから「Very cool」とコメントされるほど高い評価を受けました。本当にありがたく、嬉しいことです。
苦労して作り上げた作品を誰かに見てもらいたいと思うのは至極当然のことだと思います。これまで、論文の掲載が決定するたびに近況報告がてら実家にその論文を送っていたのですが、残念ながら返ってくるのはいつも「よく分からん。」という返事でした。まあ、英語ですし、きちんとした説明もしてこなかった私の怠慢のせいなので、当然の結果と言えます。そこで、今回からは態度を改め、理解してもらえるようにもう少し努力してみようかなと思っています。
さて、今回の論文の内容ですが、簡潔にまとめると下記のようになります。
「受精卵が2細胞に分裂する際、紡錘体という構造が染色体を分配する役割を果たします。前核が消失した後、微小管形成中心から染色体に向かって伸びた微小管によって紡錘体が構成されますが、マウス受精卵では複数個の微小管形成中心から伸びた微小管によって染色体が安定的に捕捉されるのに対し、ヒトでは精子由来の中心体に依存する2個の微小管形成中心しか形成されないため、微小管に捕捉されない不安定な染色体が発生するリスクが高くなります。」
ちょっと分かりにくいですよね。難解な専門用語が連続して出てくるので、途中で読むことを諦めてしまった方がおられるかもしれません。そこで、上記内容をイメージしやすいように図にすると下図のようになります。
図が入ることによって、マウスとヒトでは仕組みが違っているのだなということが分かりやすくなったのではないでしょうか。図で示したような紡錘体形成の仕組みの違いが細胞分裂時の染色体の安定性に影響しているわけです。
この仕組みの違いがどのように染色体の安定性に影響しているかをさらに分かりやすくするため、ここで「例え」を使ってみます。今回、我ながら上手い例えができたなと思っているのですが、上記の図を投網漁に例えてみました。
いかがでしょうか。染色体を魚に見立てたのですが、なぜマウスが安定して染色体を捕捉できて、ヒトでは不安定なのか、少しイメージしやすくなりませんか?マウスは複数の投網(微小管)によって魚(染色体)を一網打尽にできますが、ヒトでは投網(微小管)が2つだけなので、魚(染色体)を取り逃がしてしまうリスクが発生します。これが染色体の不安定性を生み出してしまう理由になっていると考えられます。
この論文が一体、どのように生殖医療に繋がるかといいますと、ヒトでは受精卵が2細胞に分裂した後に多核という現象が高頻度に発生します。通常ですと細胞には1個の核しかないのですが、小さな核が複数個できてしまう現象です。しかしながら、マウスの受精卵では多核は起こりません。つまり、この論文で示したヒト受精卵の染色体分配の際に起こる染色体不安定性が2細胞での多核発生に関わっているだろうと推察されます。
マウスは一回の妊娠で沢山の子を産むのに対し、ヒトは基本的に1人の子しか産みません。ですので、ヒトの方が発生の仕組みが緻密に制御されているものだと思いきや、染色体分配に限ってはそうとも言えないのだという事実が判明し、本当に意外で、とても驚きました。このメカニズムが生物学的にどのような意味を持っているのか、実に興味深いです。
そしてこの学術誌、ちょっと変わっておりまして、私が投稿したPoint of Viewという論文形式に限っての話ですが、web上にプロモーションビデオ(PV)を載せる事ができます。私も動画編集ソフトを駆使しまして、自身の趣味全開のPVを作製しました。見る方が見れば、何をモチーフにしたビデオであるのか、すぐにお分かり頂けると思います(本当は金色のドロイドの声にしたかった!)。ちょっと遊んでいますが、内容はちゃんと学術的なものになっております。2分ほどの短い動画ですので、興味のある方は是非とも下記リンクからご覧になって下さい。
下記リンクでは論文とともに掲載されます。
https://rep.bioscientifica.com/page/pointofview/point-of-view