第39話 奇跡の実
- 2022年12月31日
- 院長・医局
2014年のブログ(第9話)にも書きましたが、院長室にオリーブの木があります。2009年の開院時に心が弱くなった時の支えにしようと購入して、もう10年以上の付き合いです。しかし、手塩にかけて世話をしてきたにもかかわらず、ほとんどすべての葉が落葉して枯死寸前の状態に陥り、クリニックに出入りの植木屋さんから“インドアの鉢植えは5年が限界ですよ”と引導を渡されたこともあります。
研究室の拡充工事に伴い院長室をクリニックビルの5階に移した時を機に、ずっと屋内で育ててきたオリーブでしたが思い切ってベランダに出し、藤沢の強い日光と海風の中で育てることにしました。それから数年、自然の中で育てたのが良かったのかオリーブは再び樹勢を取り戻し、誰に見られることもなくひっそりとですが、しかし逞しく育ちました。
今年10月のとある日、風に吹かれて枝をなびかせているオリーブの木を見ていた時、葉陰に綺麗な黄緑をした丸い実が一つぶら下がっているのに気づきました。長い付き合いの中で初めてのことだったので、その日から部屋に上がるたびにベランダに出てオリーブの実が落ちてはいないか、鳥に持っていかれてはいないか、オリーブの実の無事を確かめる日々となりました。
オリーブは選定後や自家受粉で稀に実がなることもあるそうですが、基本的には他家受粉で傍に種類の異なるオリーブの木がないと実をつけないそうです。そうすると、どこか遠くから5階のベランダまで風に乗って花粉が運ばれて受粉し、この実を実らせてくれたことになります。10年以上の間一度も起こらなかったことが初めて起こったようです。
そのとても低い確率を思うとこの実の中に奇跡を叶えてくれる力が秘められているような気がして、このオリーブの実をミラクルと名付けました。そして、なんとなく幸せな気分でミラクルの安否を気に掛ける日々が続きました。しかし、冬が訪れ寒さが募ってくると、ミラクルが落実してただ土に戻っていくのが寂しく思われ、先日心を決めてミラクルをそっと切り取り、小さなガラス瓶の中に入れて机の上に飾りました。
10年越しの苦節をともにしたオリーブからの夢を叶えてくれるお守りとしてずっと傍に置いておきたいと思います。
2022年も今日で終わろうとしています。
多くの事件や事故そしてコロナなどの疾病や戦争など、ある日突然訪れるかもしれない不幸が溢れている社会で、スタッフ全員が大過なく揃って新年を迎えることができることは感謝すべき奇跡のようにも思われます。
スタッフの皆さん、そしてYSYCに通院してくださった患者様、2023年が実り多き無事な年でありますように心から祈っています。
2022年12月31日 院長 山下直樹