第41話 暑中見舞い
- 2023年7月18日
- 院長・医局
“先生、失礼しています。私、もう仕事を離れました。昨年は自転車で日本一周しました。また、甲状腺がんの治療もしています。先生にお役に立つこと何もしていませんのにいつもお便りをいただいて恐縮です。”
今年も暑中見舞いが届く季節になりました。
電子メールにはない直筆の心遣いを感じながら書き添えられている近況を読ませていただくと、空白の時間を越えて書き手の方々の懐かしい顔が思い出されてきます。
“私の方は、この7月から新たに3名の整形外科大学院生を引き受けることになり合計7名の大学院生を抱えて運動器疾患の研究を継続しております。また、週二回の筋トレも順調にやっております。もうしばらく研究を継続したいと考えています。”
文頭のお便りは2009年のYSYC開院時に培養室の管理方法について様々なご教示をいただいた先生からのものです。海外に何度も留学された豊かな経験と実績を持つ博識にもかかわらず、 十歳も年下で培養室経験の乏しい私に、偉ぶることもなく培養のイロハを手ほどきしてくださったことを思い出します。それ以降、学会等でお会いすると柔和な笑顔を携えて先方から“やあ、先生!お元気ですか?”と気さくに声をかけて下さいます。立派な研究者である以上に、心優しく生物学が心底お好きな人格者というのが私の変わらぬ印象です。
甲状腺がんの治療をしながら自転車で日本一周をされたとのこと。心身ともに慮ることのできない様々な葛藤があったと思いますが、淡々とした文面に先生の優しさと強さを兼ね備えたお人柄を感じます。
二番目のお便りは、私が大学院の時に研究指導してくださった恩師からのものです。メタロプロテアーゼという酵素の研究では世界的にも有名な先生で、大学の教授職を定年退官された後も、寄付講座を開催され多くの研究員が先生の下に集まってきます。私は優秀な研究者ではありませんでしたが、この先生の下で研究の手ほどきを受けたことが今でも自分の大きな財産になっていると思っています。70歳を越えても衰えない研究に対する情熱と後進に対する思いやりの深さにいつも驚かされます。
人それぞれいろいろな生き方があってどのような生き方が幸せな生き方なのかは、時代とともに移ろうところもあり、なかなか答えの出ない難問です。しかし、どのような生き方が生き生きと輝いているかと問われれば、自分の叶えたい夢に向かって諦めることなく歩き続けている夢追い人の諸兄が、一番輝いているように感じられます。
壁にぶつかって心が弱くなることもきっとあるのではないかと思いますが、ぶれることなく自分の夢に向かって無心に歩き続けている姿にはいつも励まされ心が揺さぶられる思いがします。
そんな思いに耽りながら暑中見舞いを読ませていただきました。
2023年7月18日 院長 山下直樹