第67回日本生殖医学会参加報告
- 2022年11月19日
- 培養室
だんだんと寒さが増してきた今日この頃ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
先日パシフィコ横浜で開催された日本生殖医学会に参加してきました。
生殖医学会は生殖医療に携わる者にとって国内で最大規模の学会です。教育講演では毎年著名な先生が最先端のデータに基づき授業してくださいます。全国の培養士も集結します。従って他施設の医師、培養室長、培養士、業者さんなど色々な方を捕まえて有用な情報を集めまくるので、通常業務中より休む時間はありません(笑)。今回も患者様にとって有益な技術や情報を山ほど仕入れてきましたので、必要に応じて提供していきます。
今回の学会では、タイムラプスインキュベーターが新鮮分割胚移植において有効であるかどうかを検討したデータを発表してきました。
当院で分割胚移植を経験した患者様は、移植前に培養士から『direct cleavage』(以後DCと表記)という現象について説明を聞いたことがあるかもしれません。通常、細胞は1つの細胞から2つの細胞に分裂します。核(染色体)の複製は一度に一つしかできないので、2つの細胞へ染色体がそれぞれ分配されることで1回の細胞分裂が終了するためです。しかしながら、タイムラプスインキュベーターを使用すると、1つの細胞から3つ以上の細胞に分裂する現象が認められることがあります。これがDCとよばれる現象です。
【DCの様子】
DCを起こした細胞は通常の胚と比較して胚盤胞へ育つ確率は低くなります。胚盤胞へ育つ確率が低くなる=DCを起こした胚は着床する確率が低くなるということです。実際にDCを起こした胚を分割胚移植した成績を見ると、非常に低い成績であることが分かりました。
【通常分割胚(C区)とDCを起こした胚(DC区)の胚盤胞培養成績】
【通常分割胚(C区)とDCを起こした胚(DC区)の分割胚移植成績】
しかしながら、DCを起こした胚をそのまま培養し、胚盤胞で凍結が出来た場合、その移植成績は通常の胚盤胞と同等であることがわかりました。つまり、DCを起こした胚を胚盤胞まで培養することで、着床する力があるかどうかをある程度見極めることが可能であるということです。
【通常分割胚(C区)とDCを起こした胚(DC区)に由来する胚盤胞の移植成績】
表中の『GS』が胎嚢まで確認できた患者様の数を表しています。
このため、分割胚移植を予定している場合でも、DCが認められた際は胚盤胞培養をお勧めしています。DCは移植直前にならないと判定が難しい場合もあるため、予定していた移植が急にキャンセルとなることもあります。しかしながら、少ない移植回数でご卒業していただくことが重要ですので、移植の可否の判断は非常に大切だと考えています。
DCの判定は通常の定時観察では見極めることが困難ですので、タイムラプスインキュベーターを使用した連続観察が必須になります。タイムラプスインキュベーターは胚盤胞までの長期培養をされる場合に有効ですが、上記のように分割胚移植などの短い培養においても非常に有用であることがお分かりいただけるかと思います。
これから新たに体外受精治療を受けられる患者様も、タイムラプスインキュベーターを是非ご利用ください。詳細については当院培養士を捕まえてご質問いただければと思います。
培養室 河野