第8話 かっこいい生き方
- 2014年4月5日
- 院長・医局
かっこよく生きていきたいと若い頃から考えてきました。そして、かっこいい生き方、かっこいい人生とは一体どんな生き方だろうと模索してきました。大学時代に好きだった文学の教授は、しっかりとした仕事を持ち、教養があり、芸術とスポーツをたしなむ人間を目指すようにと講義中よく口にしていました。そして教養人となるために青春期のうちに絶対に読んでおいた方がいいと、トルストイ、カミュ、スタンダールなどの本を勧めてくれました。そこまで言っていただいて読まないわけにもいかず、なんだかあんまり面白くなさそうなのを無理やりに読んだものでした。しかし、残念ながら当時の私には難しすぎて、読後に心に残っていたのは世界の名作と呼ばれる代物を読破したという空虚な満足感だけでした。読書が好きでいろんなジャンルの多くの本を読んできましたが、今でも心に残っているのは山本周五郎さんの虚空遍歴、三島由紀夫さんの豊饒の海そして街道をいくなどの司馬遼太郎さんの洗練された文章です。話は少しそれますが、童話は子供たちにせがまれて和洋を問わずたくさん読みました。その中では笠地蔵とマッチ売りの少女が一番好きです。頭に雪の積もったお地蔵さんにお爺さんが自分のかぶっていた手拭いを巻いてあげているシーンやマッチいりませんか、マッチいりませんかとつぶやきながらマッチ売りの少女が雪に埋もれて昇天していくシーンを子供たちに読み聞かせていると、いつも声がうるうるしてしまって、読み聞かせている本人の目頭が熱くなってしまっていることを子供達に気づかれないように苦労したのを覚えています。金沢にある自宅の和室の雪見障子を上げると坪庭に小さな笠地蔵さんが微笑んで佇んでいるのが見えます。我ながら笠地蔵さんが好きなんだなあとその姿を見るたびに思います。
各界の著名人の中でこの人の生き方はかっこいいなあと思う人は将棋の羽生善治さんと競馬の武豊さんです。二人とも周囲からは天才と呼ばれ、若くして頂点を極めた人ですが、道を究めるためにはどんな努力も惜しまない真摯さと自分が完璧でないことを自覚し更なる高みを目指す謙虚さを兼ね備えているように思います。そして、超一流となり地位も名誉もすべてを手に入れても、妙に粋がったり偉ぶったりせず、地に足がついた生き方をされているところがとても自然体でかっこいいなあと思います。普段の穏やかで優しい表情が、勝負がかかった時の迫力のある眼差しを一層際立たせているようにも感じます。
最近、琴線に触れた言葉は俳優の松平健さんがレポーターの質問に答えたときの言葉です。レポーターがいつまでも若い肉体と、衰えを知らない精神力のどちらか一方を取るとしたらどちらを取るかと尋ねたところ、松平さんは何の躊躇もなく“精神力だね。僕は早く老け役をやりたいんですよ。本当に老人役を演じるには、メイクアップで老人顔を作るのではなく、自分が老人になって演じないと本物じゃないように思うんですよ。だから早く年をとりたい。若く見られたいなんて全然思わない。”とさらっと答えました。少しでも若く見られようと、整形したり若作りしたり涙ぐましい努力をしている人が多い中で、松平さんの言葉は凛として、なにか覚悟が決まっているような印象を受けて、爽やかな風に吹かれたような心地良さを覚えました。恐らく、様々な辛苦を乗り越えてきた人にしか辿り着くことのできない悟りに近い境地に彼は達しているのかもしれません。この言葉を聴いて以来、私はにわか暴れん坊将軍ファンになってしまいました。
以上、そんなこんなを考えると私が考えるかっこいい生き方は
夢を持ち続け、その夢を叶えるためにひたむきに努力している人
自分の未熟さを知る謙虚さを持ち、それを向上心に転化させている人
努力をしなければ何も得ることはできないけれど、たとえ最大の努力をしたとしても必ずしも報われるわけではないこ とを心のどこかで覚悟している人
の三つに集約されるように思います。
天才でもなんでもなく、もうだいぶくたびれてきている私ですが、夢と謙虚さと覚悟を持ちもうしばらくの間努力を続けていきたいと考えています。そして、いつか自分の人生を振り返ったとき“まあまあかっこいい人生だったね”と自画自賛できたらいいなと思っています
2014年4月4日 院長 山下直樹