精子の凍結デバイス「MAYU」について
- 2017年8月21日
- 研究室
8月も下旬に向かい暑さも厳しいこの頃ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
高度生殖医療研究所の中田です。
7月末の日本受精着床学会では凍結のワークショップで私たちの開発した精子の凍結デバイス「MAYU」について講演させていただきました。
精子数がとても少ない患者さんの精子を確実に凍結し、確実に融解し、顕微授精に使用できるデバイスです。どんなデバイスか、ということをお伝えしますと、臨床の現場では、精子を凍結する際に、凍結専用のフタのついたチューブやストローを使用して、凍結液に混ぜた精子をそのチューブやストローに入れて凍結保存を行っています。精子は頭部の幅が5µm×7µmくらいのラグビーボール型で尾部を入れるとおよそ60µmという大きさです。その精子を1mlの凍結液と混ぜると考えると、どれだけ大量の液の中に小さな精子を入れて凍結しているかは想像していただけるかと思います。さらに融解する際には、6mlの培養液で凍結液を洗浄除去するという工程が必要になります。その工程で10%以下ではありますが、精子数が減少する場合もあります。精子数がとても少ない患者さんの場合にはこの工程を経ることにより、顕微授精に必要な精子が確保できない可能性も出てきます。
そこで私たちの発明した凍結デバイスMAYUですが、1µl以下の凍結液の中に1つの精子を凍結保存することが可能であり、融解の工程でも大量の培養液で洗浄する必要がないというものです。“精子数が少ないし、その中でも正常な精子が少ないから、顕微授精は難しいかもしれません”と言われたことのある患者さんには治療の回数や可能性を高めるために最適かつ最良の凍結法と思います。YSYCの治療のモットーは最先端の治療を最高の技術ですのでこのモットーに恥じないように、現在ないものを新たなより良いものを作ることは高度生殖医療研究所の使命と考えています。
話は少し変わりますが、なぜMAYUという名前にしたの?とよく尋ねられます。
形状が繭に似ていることもありますが、日本の経済を古くから支えてきた生糸の原料となる伝統のあるものですし、幼虫から蛹を経て、新しく生まれ変わり次世代に繋げる、というのはとても素敵だからです。素敵だなと思いますが、私は高校時代に生物部で蚕や繭の中の蛹をたくさん解剖をしました。蛾はとにかく嫌いなので、解剖はしませんでしたが、幼虫と蛹の体の作りを調べることはとても勉強になりました。またその際に、蚕の歴史も調べました。紀元前2500年頃の中国で、伝説の黄帝の皇妃の西陵という方がうっかり箸で繭をお湯の中に入れたら、箸に糸が巻き付いて、それがとてもきれいな糸だったというのが絹糸の始まりだそうです(普通はうっかり落としたりしませんよね。)。その後、しばらくは宮廷の中でのみ、絹糸が作られていたそうですが、次第に民間に広まり、日本には弥生時代に伝来されたそうです。想像でしかないのですが、あまりに綺麗な糸で宮廷の中だけでは生産が間に合わなくなったこともあって、宮廷外でも作れるようにしたのかもしれません。綺麗な糸が縦糸と横糸になって布を作るのは、中島みゆきの「糸」という歌ではないですが、とても素敵で、MAYUが患者さんにとっても、ご夫婦の絆につながったらいいなと思います。
まだまだ、MAYUもこれからですし、手掛けている実験を世に出して、患者さんの役立つものを作っていけたらと思います。