近況報告
- 2021年5月16日
- 培養室
蔓延防止措置、緊急事態宣言でも相変わらず人出の絶えない状況が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。立て込んでおり、なかなかブログをアップすることができませんでした。最近大きな出来事が続いたので、その内容を報告させていただきます。
1.投稿論文のアクセプト
2015年より続けております、巨大卵子(Giant oocyte)に関する研究論文が学術誌に採択されました。「アクセプト」とは学術誌に投稿した論文について、厳密な審査の結果、研究内容が承認・受理されたことを表します。アクセプトされた論文は学術誌やインターネット上に公開され、多くの研究者・医療従事者が見ることが出来るようになります。
Giant oocyteはごく稀に採卵時に得られる、通常の倍以上の染色体を有する卵子です。異常卵子として扱われますので、当然ながら治療に用いることができません。このGiant oocyteを何とか治療に応用できないものかと研究を続けておりましたが、採卵率は全卵子中の約0.3%であり、研究対象としては非常に厳しいものでした。しかしながら、患者様のご厚意により検討に必要な数が集まり、論文としてデータをまとめることができました。ご協力いただきました患者様にこの場を借りて御礼を申し上げます。
Giant oocyteの治療への利用は、現段階ではかなり工夫が必要であることがわかりました。また、解析可能な検体の数も限定されますので、これを機に世界中でGiant oocyteの研究が広まってくれれば、と期待しております。もちろん当院でも引き続き検討を重ねてまいりますので、研究が進捗すれば新たに論文としてデータをまとめようと思います。
もし興味がございましたら、論文のリンクを記載しておきますのでご覧ください。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/rmb2.12378
2.博士号取得
2017年に社会人入学をした麻布大学獣医学研究科を、上記の投稿論文アクセプトに伴い卒業でき、博士号を取得することができました。受験勉強から始まり学業と仕事の両立に取り組んで参りましたが、ようやく一息つけるところにたどり着きました。
論文の作成過程において大学教授を始め、多くの方々に学びの機会を与えていただきました。データはただの数字でしかありませんが、視点によって色々な解釈ができます。手を動かしてデータを出すことも大事なことですが、それよりも手元にあるデータに適切な解釈を与えることが最も重要であると思います。データが不十分なまま良い、悪いと物事を判断すると、現政府のコロナ感染症対策のようになってしまいます。これは当院の培養成績についても同じことが言えます。
過去のデータ、最新の研究データを踏まえ、患者様の治療が実を結ぶように最大限のお手伝いをさせていただこうと思います。
3.WEBセミナー講師初体験
3月27日に凍結融解液に関するWEBセミナーの講師をさせていただきました。オンライン配信は初の経験でしたが、企業の担当者も初の経験とのことであり、時間をかけて細かいやり取りを重ねて本番を迎えました。かなり多くの方がご参加くださり、LIVEでの質疑応答では多くの質問をいただき、非常に充実した時間を過ごさせていただきました。
凍結融解液は、不妊治療において非常に重要な役割を担います。卵子、胚の体外操作では採卵、受精、凍結可能な時期まで胚を成長させるために多くの患者様や病院スタッフの苦労があり、その最後を締めくくるのが凍結融解過程になります。臨床成績を左右する大切な部分になりますので、どの施設でも使い慣れた従来品の見直し・変更の検討は躊躇すると思います。当院ではこれまでに多くの動物試験、廃棄胚を用いた検討を行いましたが、その過程および臨床利用による結果を中心に話をしました。具体的にはマニアックな話になりますので割愛しますが、これまでと同等以上の良好な成績が得られていますので、今後妊娠成績のさらなる向上が期待できます。
長々とした文章になりましたが、私にとって非常に大きな経験となった出来事をご紹介させていただきました。5月末、7月の学会発表、8月のワークショップ講師と予定がどんどん決まってきておりますが、しっかり誠実に仕事をしていきたいと思います。
培養部 河野 博臣