顕微授精時の紡錘体観察は胚培養成績を安定させる(生殖医学会参加報告)|山下湘南夢クリニック|藤沢市の不妊治療/体外受精

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顕微授精時の紡錘体観察は胚培養成績を安定させる(生殖医学会参加報告)|山下湘南夢クリニック|藤沢市の不妊治療/体外受精

顕微授精時の紡錘体観察は胚培養成績を安定させる(生殖医学会参加報告)

季節外れの暖かさがようやく収まり、寒さが訪れるようになってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。スケジュールが立て込んでおり報告が遅くなりましたが、先日米子で開催されました第66回生殖医学会でデータを発表してきました。今回は、顕微授精の際、卵子の核である「紡錘体」を観察することが有効であるかどうか、4年分のデータを集計して報告してきました。今回のブログの内容は少しわかりにくいかもしれません。よくマニアックだと言われますが、書きます。できる限りご理解いただけるように努力します。

 

「紡錘体」は極体(成熟卵子の細胞外にある小さな細胞片)のすぐ近くに存在するとされ、顕微授精時は極体を避けて穿刺することが常識でした。しかしながら、必ずしも「紡錘体」は極体と近接しないことが論文報告などにより明らかになってきました。

 

 

卵子紡錘体の位置とその分類(偏光視野で白く光っているのが紡錘体)

 

「紡錘体」は卵子細胞の中に存在しますが、通常の顕微鏡観察では非常に見つけづらいです(見つけられるという報告もありますが、全ての卵子には当てはまらないと考えます)。そこで、「紡錘体」を発見するための特殊な顕微鏡(偏光顕微鏡)を用いた顕微授精(SL-ICSI, 2016年12月6日BLOG参照)を導入し、当院で実施する顕微授精のスタンダードとしました。4年間分のデータを解析した結果、「紡錘体」が極体のすぐ近くに存在する確率は約40%であり、加齢とともに紡錘体の位置は極体から離れて存在する傾向であることがわかりました。

 

 

 

紡錘体位置のずれる割合(上)と年齢相関(下)

 

SL-ICSI導入前では、加齢に伴い顕微授精の受精率が低下する傾向にありました。一方、SL-ICSI導入後では、顕微授精受精率と年齢相関は認められなくなりました。つまり、SL-ICSIは卵子紡錘体へのストレスを避けることができ、年齢因子による受精のブレを解消できる手法であることが明らかとなりました。当院では、他院で治療が上手くいかなかったり、あるいは年齢により治療を断られた患者様が多くいらっしゃいます。このため、体外受精治療のスタートラインである「受精」をしっかりと安定させさものとする技術は、当院で治療を受けられる多くの患者様にメリットをもたらすものと考えます。

 

 

SL-ICSI導入前後の顕微授精受精率-年齢相関( 青:SL-ICSI導入前、オレンジ:SL-ICSI導入後)

 

COVID-19が蔓延し、最近まではオンライン学会がほとんどでした。今回は久しぶりに実地で開催されましたので、他施設の先生方との質疑応答を通した議論、交流を楽しみにしておりました。ある施設の先生から早速質問がありましたが、「こんな(に改善する)ことはあり得ない」という、質問というよりはイチャモンに近いものでした(笑)。培養士は職業上、研究者としての視点を持ち合わせている先生が多いですし、そうあるべきであると考えます。得られたデータについては、何故そのようなことが結果になったか、様々な根拠を元に客観的に考察します。反対に「あり得ない」という根拠のない感情論から解析を始めることは、視点を曇らせ建設的な考察ができなくなります。顕微授精の際に紡錘体など気にしたことがないのかもしれませんが、質疑応答の貴重な時間が失われ、不完全燃焼となってしまいました。せめて、私たちの技術に対する誉め言葉として受け取っておこうと思います。

 

学会会場では、他施設の培養士の方々と情報交換、議論することができました。この時間が楽しくて、このために学会発表をしています。有用な情報、技術をたくさん持ち帰ってくることができましたので、よい結果につなげられるように取捨選択していきます。

 

培養室 河野 博臣