YSYCのピエゾICSI
- 2015年7月21日
- 研究室
梅雨が明け、すっかり夏空になりましたが、皆様はお元気でしょうか?
高度生殖医療研究所の中田です。
今回はYSYCのピエゾによる顕微授精(以下、ピエゾICSI)と私のピエゾとの出会いについてお話しようと思います。
現在、他院または当院で通常の顕微授精(以下、ICSI)を繰り返し行って、卵子の変性や不受精、受精後の胚発育の悪い方を対象にピエゾICSIを行わせていただいています。
現在までの結果として、通常のICSIで卵子の変性が見られる方には有意に変性が減り、受精後になかなか胚盤胞に発育しなかった方が胚盤胞に発育し、妊娠し卒業される方も出てきました。
私たちはさらに、ピエゾICSIの際、卵子に精子を注入するガラスキャピラリーを特殊加工し、行っています。しかしながら、この特殊加工技術は難しく、1か月に10本という極く限られた本数しか生産できないのが現状です。ただし、とても卵子に負担の少ないピエゾICSIを行うことができると考えています。実際に、私自身が何度か使用してきた経験がありますので、このキャピラリーは有効であると考えています。
こちらでは、内容を特にお伝えすることができませんので、興味のある方がいらっしゃいましたら、医師にご相談いただければと思います。
こちらからは余談になりますが、私のピエゾICSIとの出会いについてです。
ピエゾICSIは1995年にマウス卵子でハワイ大学の木村先生、柳町先生のグループにより最初の報告がされました。マウス卵子は非常に脆弱で通常のICSIでは卵子が生存することはかなり厳しく、ピエゾICSIにより初めて高い生存率が得られました。私が大学の研究室に入ったばかりの2000年、当時、私の教授が共同研究をしていた感染症研究所の先生のもとで見せていただきました。その共同研究先の先生もハワイ大学に留学し、その技術を日本に持ち帰り、マウスだけでなく、ウサギやサルのピエゾICSIや精子の未熟な段階の円形精子細胞を用いたピエゾICSIなどいろいろな技術を開発していました。当時は、ピエゾ技術の勃興期と言えると思います。私の教授も大学に赴任して1年目という年でしたが、ピエゾを導入し、8月からピエゾの集中特訓が始まりました。同期が多い年だったので、15人近くいる同期の中で選抜メンバーに選ばれた私を含めて3人がその集中特訓メンバーでした。
ピエゾICSIに使うガラスキャピラリーの作成から始まり、ブタやマウスの卵子にピエゾICSIを朝から翌朝まで行う毎日でした。どうしてそんなに練習したかというと、1日100個の卵子にピエゾICSIを3か月やって、やっとピエゾICSIができる、と言われていたということもあると思います。
とにかくずっとやり続けても、まだ足りなくて、ずっとやり続けました。それは、私たちが開発された1995年という年から5年遅いスタートだったからです。本当に技術を覚えることに貪欲で、見れるものならば何でも見て覚えたい、それを何かに生かしたい、教えてもらえるものはそれ以上に質問して吸収して、誰よりも練習したい、誰よりもうまくなりたい、そんな毎日でした。それでも足りない、何か足りない、そんな思いとの戦いでした。
3人のうち一人はブタのピエゾICSIからブタのクローンの技術開発に進み、現在はドイツで研究しています。もう一人は私の親友ですが、彼女とは一緒にマウスの研究を大学時代にずっと行い、彼女はその後、感染研で研究、理研に移り、マウスの精子細胞の研究を行っていました。
私は2人とは違い、ずっと不妊治療での仕事、技術開発が夢だったので、今ここで研究ができているのは、現在の職場の理解が一番ですが、恩師たちや切磋琢磨できた友人たちのおかげもあると思います。
あんなに熱い夏はなかったなと思い出しますが、朝から翌朝までぶっ通しの特訓を何週間もできたのは、あの頃だけだったと思います。今は、1日2日はなんとかできてもそんな集中力と体力を何週間も維持するのはなかなか難しいですね。
その時の特訓や恩師たちの教えがあり、少ないながらも同じ思いをもつ後輩や同僚たちを育てることができ、患者さんが妊娠してくれるのは本当に嬉しいです。恩師に伝えると、本当に喜んでくださいます。
技術は一人ができても仕方がないです。自分の意思でやりたい人ができる技術でなければ意味がない、と思います。
余談が長くなってしまいました。ピエゾの導入がこのところ目立つようになりましたが、本質はなんの技術においても大事で、卵子に対する思いやりや工夫が目の前の卵子にどう生かせるかになると思います。YSYCでは、脆弱なマウスの卵子で結果が出せる培養士しかピエゾICSIは行えない、これは、私の意地を許していただける山下院長のおかげですが、患者さんの卵子を初めてピエゾを行う培養士のピエゾICSIの練習には絶対にしない、ということでもあることを皆様にわかっていただけたらと思います。