体外受精
体外受精(IVF:In Vitro Fertilization)は、卵巣から卵子を取り出し(採卵)、体外で精子と受精させ、育った胚(受精卵)を子宮に戻す(胚移植)治療です。
卵管を通らずに受精・着床の過程を進めるため、卵管に問題がある場合にも妊娠の可能性を開くことができます。タイミング法や人工授精では妊娠に至らなかった場合の、次の段階の治療にあたります。
どの治療が適しているかは、検査の結果と経過をもとに医師がご説明します。はじめての方は「はじめての方へ」もあわせてご覧ください。
当院の体外受精は、次の4つを基本方針としています。
この方針のもと、当院は高度生殖医療研究所を併設し、極細の採卵針や細く柔らかい移植用カテーテルなど、治療に用いる器具そのものを自院で開発してきました(「3. 採卵」「6. 胚移植」をご覧ください)。
私たちは1999年より採卵針の独自開発を開始し、現在は世界標準の採卵針(17ゲージ)に比べ、約2分の1の太さの採卵針(21または22ゲージ)による採卵を行っています。針の先端部分の刃は特殊な方法で加工し、組織へのダメージを最小限に抑えるように工夫を施しました。この極細針では痛みや出血も軽度なため、不妊治療施設で一般的に行われている採卵のための全身麻酔処置は必要ありません。また、身体に大きな負担をかけず通常数分で採卵が完了するので、採卵後の安静時間は10分程度で当日帰宅が可能です。
採卵個数が1〜5個の場合は、無麻酔、またはご希望により局所麻酔スプレーを使用します。採卵個数が6個以上の場合や、癒着・子宮筋腫などで採卵が難しい場合は、鎮痛剤の筋肉注射を行います。
痛みに弱い方、卵巣の位置が深く痛みが強い可能性がある方、採卵個数が多い方は採卵決定時に医師または看護師に申し出てください。座薬、局所麻酔スプレー、鎮痛剤の筋肉注射等により適宜対応いたします。
※完全に無麻酔で行っているというわけではございません。
採取した卵子と精子を受精させます。精子の状態に応じて、次の2つの方法から選択します。
1個の卵子と10〜20万匹の精製した良好な精子を、培養液中で受精させるもので、自然に近い受精方法です。
精子の数や運動性に問題があり通常の受精法では受精率が低いと予測された場合、顕微鏡で観察しながら微細なガラス針で1匹の精子を卵子に注入する顕微授精を行います。
当院では卵子への侵襲が少ないピエゾICSI、および受精しなかった卵子に対する卵活性化法にも対応しています。
→ 詳しくは「顕微授精(ICSI)」をご覧ください。
着床する直前の胚は胚盤胞と呼ばれます。加齢や卵管炎など卵管の機能が低下している方は、胚が胚盤胞まで発育しにくいと考えられます。卵管機能を代用する培養方法です。
タイムラプスインキュベーターは、培養器に顕微鏡の機能と高性能カメラが備え付けてあります。それにより、胚をインキュベーターから出すことなく一定の間隔で自動的に胚を撮影することで、胚のストレスを軽減させ、成長を動画で追うことができ、発育胚の異常を知ることができます。
タイムラプス培養は先進医療にあたるため、保険診療と併用いただけますが、この分は自費(30,000円)となります。
体外で育てた胚を子宮内へ移植します。目的の位置へ正確に胚移植を行うには熟練を要します。当院では経腟超音波で移植位置を確認しながら、正確かつ速やかに移植を行います。
私たちは以前より多胎妊娠の減少を目指してきました。現在ではほぼ100%、1個の胚(受精卵)だけを子宮に戻す治療を行っています。
私たちが開発した細く柔らかいカテーテルを使用します。一般的なカテーテルが6フレンチというサイズなのに対して当院では2フレンチのカテーテル(2分の1以下の太さ)を開発し、素材も従来のテフロンという硬いものからシリコンという非常に柔らかいものに変更しました。操作性と柔らかさの間には相反する関係があり通常カテーテルには一定以上の硬さが要求されますが、これを独自の技術で解決しました。
黄体ホルモンは妊娠ホルモンとも呼ばれ、胚の着床やその後の妊娠維持に欠かせません。当院では着床環境を整えるために、黄体ホルモン値を複数回測定し、正確な黄体ホルモン管理を行っています。
体外受精-胚移植の着床不全の原因のひとつに受精卵と子宮内膜の反応不全があります。最近の研究では、受精卵が着床するためには、受精卵からのシグナル(胚因子)が必要であり、それと同調して子宮内膜は着床環境を整えている(Implantation windowを開く)と考えられています。胚盤胞移植のみではこのシグナルを送るタイミングが無いため、着床不全の原因となる場合が考えられます。この対策としてSEET(Stimulation Endometrium of Embryo Transfer)法があります。これは自身の胚培養に用いた培養液を、胚移植の数日前に子宮腔内に注入し、子宮内膜の着床環境を改善させる方法です。
SEET法は先進医療にあたるため、保険診療と併用いただけますが、この分は自費(凍結代10,000円・融解代30,000円)となります。
良好と考えられる受精卵(胚盤胞)を移植しても着床が起こらない患者様がいらっしゃいます。このような方に対しては、良好凍結胚盤胞と不良凍結胚盤胞をペアにして移植を行います。移植された胚と子宮内膜とは相互に刺激を与えながら着床過程が進むと考えられています。移植胚側から内膜側への働きかけを増強し、しかも良好胚と不良胚を組み合わせることで多胎になる確率を極力避ける方法です。
また子宮鏡検査や子宮内膜着床能検査(TRIO検査)、慢性子宮内膜炎検査(CD138)なども行っております。
胚を包む透明帯に異常があると着床率が低下することがあります。当院では安全性の高い赤外線ダイオードレーザーを用いて、人工的に透明帯を取り除くアシステッドハッチングを行っています。
→ 詳しくは「アシステッドハッチング(AHA)」をご覧ください。
精液とは液体である精漿の中を精子が泳いでいる環境です。精液中には雑菌や死滅精子が含まれるため、精子を治療に用いるためには遠心処理などを行い、無菌的に精子を集める必要があります。しかしながら遠心処理のデメリットとして、集めた精子のDNA断片化率を高めるという報告があります。
SSDは健常な精子が選択的に通過できる膜を用いることで、精液から精子を分離することが出来るデバイスです。具体的には、1mL程度の精液をデバイスに入れ、膜を通して培養液中に精子を分離します。これにより、遠心処理と比較してDNA断片化率の低い精子を集めることが出来ます(Journal of Assisted Reproduction and Genetics, 2023)。
当院では2023年にSSDを先進医療として実施できる施設認可を得ております。そのため、保険診療との併用が可能です(この分は自費となります)。
デメリットとしては、規定量(1mL)の精液を使用しますので、精液量が1mLを超えており精子濃度が低い方は、十分な精子が回収できない可能性があります。精子の回収量が少なかった場合、通常媒精(cIVF)をご希望であっても実施できず、顕微授精(ICSI)を選択せざるを得ない可能性が出てきます。
費用は1回の使用で25,000円(自費の場合は税込27,500円)となり、ご利用できる患者様は、1回以上の体外受精または顕微授精を実施しても移植可能胚が得られず、または胚移植しても妊娠に至らなかった方に限ります。
射精精液中に精子を認めない場合や運動精子が認められない場合、精巣上体(精巣で作られた精子を一時的に貯蔵する器官)や精巣から外科的に精子を採取する方法です。提携先の泌尿器科で手術を行い、当院にて顕微授精を行うことも可能です。
採卵当日に精子の準備ができない場合、自宅で採精した精液を事前に凍結保存しておくことが可能です。当院は極少数精子凍結コンテナー「MAYU」の開発で国際特許を申請・取得しており、通常凍結法では難しい極少数の精子を凍結保存し利用する技術を有しています。
→ 詳しくは「精子凍結保存」をご覧ください。
着床するためには、胚と子宮内膜が正確に同期することが必要です。両者のタイミングがずれている場合、胚を凍結保存します。当院の胚凍結は、融解後も高い生存率を示すガラス化凍結胚保存法で行っています。凍結保存した胚は、子宮内膜の着床環境が最適な時点で融解し、移植します。
→ 詳しくは「受精卵凍結保存」をご覧ください。
体外受精は、条件を満たす場合に保険診療の対象となります。
2022年4月に施行された生殖医療の保険制度の大枠に変更はありません。先進医療など一部に変更がありますので、該当される方は日本産科婦人科学会の関連ページをご参照ください。
回数や年齢の条件を超える場合は自由診療となります。当院の自由診療は「基本料金+成功報酬」という料金体系を採っており、患者様が納得されて治療を受けられるよう、体外受精・胚移植のほとんどすべての段階でこの制度を適用しています。
保険診療・自由診療それぞれの料金表、料金シミュレーション、限度額適用認定証については、「料金について」に詳しく記載しています。
→ 料金について → 自由診療の料金計算
| 1. ご予約・初診 | 完全予約制です。Web または お電話にてご予約ください。初診時に問診と検査を行い、治療方針をご相談します。 |
|---|---|
| 2. 説明会(オンライン) | 体外受精を受けられる前に、治療の必要性やメリット・デメリットなど、その概略を知っておくことは大切です。スライド40枚ほどを使った約1時間のレクチャーを、オンラインで行っています。必須ではありませんが、ご覧になることをお勧めします。 |
| 3. 月経3日目頃:ホルモン検査・卵巣刺激の開始 | ホルモン採血を行い、卵巣刺激を開始します。当院では低刺激/自然周期を基本としています。 |
| 4. 月経10日目頃:採卵日の決定 | 診察と採血で卵胞の発育を確認し、採卵日を決定します。通院はおおよそ5日程です(治療内容や月経周期により個人差があります)。 |
| 5. 月経12〜14日目頃:採卵 | 独自開発の極細針を用い、原則として全身麻酔を行わずに実施します。処置自体は数分、採卵後の安静は10分程度です。診察やご説明を含め、ご来院からお会計まで約2〜3時間をみていただいています。 |
| 6. 受精・培養 | 精子の状態に応じて通常媒精(cIVF)または顕微授精(ICSI)を行い、タイムラプスインキュベーターで胚の発育を確認します。 |
| 7. 月経16日目以降:胚移植または胚凍結 | 独自開発の2フレンチカテーテルを用い、経腟超音波で位置を確認しながら移植します。原則として1個の胚を移植します。子宮内膜との同期が必要な場合は胚を凍結し、後日移植します。移植後は黄体ホルモン値を複数回測定し管理します。 |
| 8. 妊娠判定 | 新鮮分割胚移植の場合は移植日から12日目、胚盤胞移植の場合は移植日から7日目に、血液検査で妊娠判定を行います。 |
※日数は目安です。月経周期や治療内容により異なります。
A. 現在の世界の体外受精の標準的な治療法は、高価な排卵誘発剤を月経初期から連日多量に注射し、20個前後の採卵を目指します。このとき、通常は親指ぐらいの大きさの卵巣が、マスカットの房のように腫れます。当然、卵巣に対する負担は大きく、採卵時の疼痛・出血・感染等のリスクは増加し、医師の採卵に対する集中力は低下します。採卵された卵子は、確実性を高めるために顕微授精が行われることが多く、着床寸前の段階(胚盤胞)まで5〜7日かけて育て上げます。このとき、着床に関与するホルモン値は自然では起こりえない高値になっていること、また胚移植をして妊娠が成立した場合に採卵後の卵巣が腫れ続け(卵巣過剰刺激症候群)、重篤な副反応を併発する可能性があることから、胚移植は行わず、胚盤胞まで育った受精卵(平均5個)はすべて凍結されます(Squeeze all, Freeze all)。そして次の周期以降に、ホルモン剤を用いて子宮内膜を人工的につくり、凍結した胚を順に移植して妊娠を目指します。この方法は一見効率的で、多くの論文で支持され世界中で行われていますが、多量の薬剤の使用、患者様の身体的な負担、高額な治療費、そして余剰凍結卵の廃棄など、過剰な医療の介入による多くの無駄を孕んだ治療法と考えています。当院では、患者様の妊娠する力を最大限に生かし、これらの無駄を極力省いた洗練された治療を目指しています。その一環として、自然周期・低刺激治療を実践しています。
A. 採卵された卵子の成熟度は、成熟卵(受精の準備ができている)から未熟卵(受精の準備ができるまで数時間の追加培養が必要)までさまざまです。未熟卵を使用せず廃棄する施設も多いですが、当院では未熟卵でも体外培養を行い、良好な治療成績が得られています。患者様の年齢にもよりますが、通常のふりかけ法(通常媒精)の受精率は約70%、顕微授精の受精率は約85%、胚盤胞発生率は全年齢層の平均で約50%です。決して、採卵されたすべての卵子が受精・分割するわけではありません。
A. 当院では、人工的に作られた培養液が受精卵にとって最高の環境とは考えていません。患者様の卵管内(特に37歳以下の方)が、受精卵の発育にとって最善の環境を提供する可能性があります。このため、体外培養で胚盤胞まで発育しない方には、卵管内の良好な環境を期待して、初期胚を2個移植することがあります。
A. 当院では、着床しやすいピークはあっても、着床の窓(Window)は2〜3日あると考えています。生理的な妊娠の過程に、凍結処理は存在しません。船の上で食べる獲れたての魚の味は、凍結解凍して食べる魚の味とは比べ物になりません。医療の介入は最低限にする、これが当院のモットーです。まずは新鮮胚移植にチャレンジしてみることをお勧めします。
A. 当院は以前より多胎妊娠の減少を目指しており、現在ではほぼ100%、1個の胚のみを子宮に戻す治療を行っています。
A. 状況によっては適切な痛み止めを行いますが、当院では基本的には無麻酔採卵を行っております。詳しくは本文「3. 採卵」をご覧ください。
A. 構いません。当院は完全に無麻酔で行っているというわけではございませんので、痛みに弱い方、卵巣の位置が深く痛みが強い可能性がある方、採卵個数が多い方は採卵決定時に医師または看護師に申し出てください。座薬、局所麻酔スプレー、鎮痛剤の筋肉注射等により適宜対応いたします。
A. 採卵・移植の処置自体は5分前後で終わりますが、診察やご説明等がございますので、ご来院からお会計まで約2〜3時間程お時間がかかります。(当日の件数にもよる)ただし、凍結胚の移植の場合は朝に診察をしてから、当日移植可能か最終決定が判断されますので、15時前後までかかる場合が多いです。
A. 特に問題ありませんが、採卵後痛みが強い場合、当日は自宅で休まれることをお勧めします。
A. 胚移植翌日、出血がなければ問題はありませんので普段どおりの生活をしても構いませんが、激しい運動はお控えください。旅行や温泉に入っても構いません。夫婦生活も大丈夫です。
A. ご自身で月経が開始したと判断された場合でも、妊娠初期の出血の可能性があります。血液検査での判断が必要となりますので、予定通りご来院ください。
A. 可能です。ただし、先進医療として保険併用できる医療機関に該当しないため当院での治療は全て自費となります。